目次
はじめに
こんにちは。画家の宮島啓輔です。
この度、クリエイター紹介雑誌企【Medium】の第二巻目を公開する運びとなりました。
このMediumは、「中間」や「媒体」などの意味があり、クリエイターとそれを観る人との中間・媒介地点になればという意味を込めて始まった企画です。
掲載料等一切無料で、何かを創っている人、活動している人を紹介していく企画になります。
企画背景や創刊号ページはこちら↓
今回は、モンゴルを旅して国内でゲル作りやイベントを開催されている大野穂さんにご寄稿頂きました。
私自身は、2026年5月、大野さんの主催するイベントに参加させて頂き、モンゴルで撮影された遊牧民の写真から絵を描かせて頂きました。

それでは、本編に続きます↓
大野穂|冒険への入口を作る
冷えた空気にしんと広がるタバコの煙、
ジリリリリというベルと共に迫ってくる目が眩む光。
どこか違う時代にタイムスリップしたような列車のホームを後に、モンゴルへと続く夜行列車に乗り込んだ。
硬い座席に飛び交うモンゴル語、一向に暗くならない列車内、さっきの列車までは中国語だったのになと目を閉じて窓に体を預ける。
ふと気づくと地平線が薄く光り始めていた。
少しずつ明るくなっていく外の景色に目を凝らす。
どこまでも続く大地、果てのない空、柵も首輪もない動物たち。
これから始まる日々への微かな不安と期待に心をくすぐられながら、静かに私の冒険が始まった。
プロフィール

初めまして、「みのもの工房」という屋号で歩んで行こうと数日前に決めました。
東京出身の24歳、大野穂と申します。
高校生の頃進路を世界一周に決め、コロナで足止めされながらもヒッチハイクや車中泊、ママチャリ、バックパック、客船などで(マイペースにですが)日本や世界を旅してきました。
約2年前、自分のアウトプットとしてものづくりというものに時間を使ってみようと思い、知り合いのシェアハウスの本棚やロッカーを作ったり、ゲストハウスの靴箱を作ったり、2024年の12月には1か月かけて大阪の古民家を改装しました。
そして2025年、3か月間モンゴルを中心に計6ヶ国のバックパック旅から帰国後、クラウドファンディングにてモンゴルの移動式住居「ゲル」を自作しました。2026年4月、モンゴル一人旅からゲルの制作、母校の小学校でやらせていただいた授業までを含めた7か月間の記録を一冊のZINEにまとめ、販売しています。
現在は関西を中心にゲルの出店をしながら、原体験である文化祭を作ったり、ものづくり・アート・クリエイティブ好きを集めた企画をしています。

冒険の入り口とは
私は旅人になりたいわけでも、建築家になりたいわけでも、作家になりたいわけでもありませんでした。
ずっと夢見ているのは、魔法が使えて、空が飛べて、世界中を渡り歩きながら少年少女たちをワクワクさせるような人になりたいということ。(きっと中学2年生の頃のあなたには伝わるでしょう)
でもそんな人になる方法がわからない私が1番最初にしたのが旅でした。
旅というと綺麗な景色と楽しく愉快な出来事と素敵な仲間との出会いと、そんなイメージがあるかもしれません。もちろんそんなものに溢れた日々です。
ですが私の心に残っている旅は、
車の中で17円の袋うどんにスーパーのレンジで温めた36円の出汁をかけて食べたお昼ご飯や、陸路で国境を越えようと夜行バスで検問所を通ると乗っていたはずのバスに置いて行かれて必死でバスを探した夜、1人でチャリを漕いでいる時なんでもない住宅街の景色がなぜか泣けるくらい美しくてでもその気持ちを誰にも伝えることができなかったもどかしさ。そんなリアルです。
この世界は思っているよりもどこにいたって面白い、冒険する心を持っていれば。

そして、物語の中を生きるような瞬間、時間を作りたい。
ミニチュアの模型や、空想の街を表現した本や、漫画やアニメにずっと魅了されていた。でもそれは妄想しているだけじゃ何も起こらなくて、自分には超能力や魔法は使えなくて、だからそれを現実にするために作っていこうと思いました。
この世界をもっと面白く生きられるように、心の中の、頭の中の冒険をもっともっと広げて。
いろんな町にツリーハウスを作って町の地図を隠したり、移動する秘密基地を作ったり、世界の面白い文化を日本で作ったり、共通点は物語や冒険が始まりそうなものづくりであること。

「みのもの工房」
この世界と空想の世界へ続く、小さな冒険の入り口を作る。
そんな想いの原点となったモンゴル一人旅からゲルの制作、それをまとめたZINEの制作について書かせていただきます。
モンゴルへ。
モンゴルへ行こうと思った理由はいくつかあります。
広ーーい草原で馬に乗って駆け回りたかったこと。心のままに。
そしてもう一つは、ゲルです。
遊牧するという暮らし方、日本人からしたら異質な文化、その中心にあるゲルという建物。一つの部屋に暮らしの全部が詰まっていて、秘密基地のようで、草原にポツンと一軒。そこにはどんな暮らしがあるんだろう。
実際にゲルに住んでみました。
何のつてもありません。列車や道端で出会った人に自分はこういう人で、モンゴルの文化が知りたい、遊牧民と暮らしてみたいんだと必死に話して連れて行ってもらいました。
泥臭いことができるのが、自分のちょっと自慢できるところです。

「ゲル」に暮らす。
目を覚ます時、
最初に感じるのは風です。
ゲルに当たった風の振動が、
そのまま寝床に伝わってくる。
今日は荒れているな。
今日は穏やかだな。
そんなことを目を瞑ったまま体で知ることができます。
目を開けると天窓があります。
青空の日もあれば、
曇り空の日もある。
その日の空を見てから外へ出る。
すると、
どこまでも続く草原と大きな空が広がっています。
昼ご飯を作るのもここ。
誰かと集まるのもここ。
洗濯も歯磨きも就寝も全部ゲルの中です。
家の中ではいつも薪ストーブがパチパチと音を立て、
気がつくと温かいミルクティーが差し出されます。
夕方になると家の中も一緒に暗くなっていく。
夜はほんの少しだけ灯りを付けるけれど、
すぐに消してしまう。
残るのは薪の爆ぜる音と風の音。
そして天窓の向こうの星空。
ゲルというものは
建物の中に住んでいるというより、
自然の中に住んでいる感覚なんだと知りました。

世界で1番美しい場所
モンゴルである人に言われた言葉です。
その人は私に初めてゲルを見せてくれた人でした。
「ここは世界で1番美しい場所なのよ」
その言葉と優しくも誇りを持った力強い表情。
私は自分の国の文化に対してそんなふうに自信を持って言えること自体がとてもかっこいいな、自分は日本の文化をどんなふうに海外から来た旅人に伝えられるだろうか。
旅をしていると、自分がその瞬間その場の「日本代表」になります。
だからこそ、自分はどうするか何を発言するか向き合わされるのです。

自分の旅をどう表現していくか
帰国後、ゲルを作ることにしました。
というより、実は旅に出る前からゲルを作るつもりでした。
でも旅を続ける中で何度も迷いました。
本当に作るのか。
作れるのか。
そもそも作る意味はあるのか。
現地では私が思っていたよりもずっと当たり前のようにどこもかしこもゲルがあって、それを見れば見るほど、
「私が作ることに意味はあるんだろうか」と。
最終的に作ることを決めたのは、
ゲルそのものを再現したかったからではありません。
自分の旅を自分の体験で終わらせるのではなく、誰かが冒険をするきっかけになるために何か形にしたい。その方が届けられるものや人が広がるんじゃないか、そう思ったからです。
現地で当たり前のようにどこにでもあったゲル、日本に帰ってくるとどこにもありませんでした。それなら私が作ることに意味があるかもしれない。
現地の市場で分解された状態のゲルを観察したり、
泊めてもらった遊牧民のお家で骨組みを採寸したり、
帰国後はYouTubeの組み立て動画を何十回も見ました。
今思えば本当にそんなんでできるの?という方法かもしれません。
それでも少しずつ構造を理解し、設計し、 木を削り、 実際に形にしていきました。

ZINEを作る
これも出発前からやりたかったことでした。
自分の旅を冒険記として残していこう。今の自分の歳でしか書けない文章がある、それを将来出会う若者たちに届けられるように。
旅の写真は綺麗です。だって綺麗だなって思ったり楽しいなって思った時にシャッターを切るから。
でも旅そのものは綺麗なことばかりではありません。
自分のコミュニケーション能力に情けなくなったり、ほんの些細なことに落ち込んだり、馬や羊を追いかけてゼェゼェと息が上がったり。
旅の間毎日書いていた日記。
今日何を見たか。
誰に会ったか。
何を考えたか。
そんなことを書いていたつもりでしたが、振り返って読んでみると自分でも気づいていないような、忘れているような自分のリアルな感情の変化や、しょうもないような毎日、その時私が生きていたという記録でいっぱいでした。
だからこそ私は綺麗なものだけでなく、リアルな言葉が連なっている日記をそのまま使った本を作ってみよう、そう思いました。
文章を書いて、
写真を選んで、
レイアウトを考えて、
表紙を描いて、
何度もやり直して。
気付けば旅と同じくらい、いや、それよりもっと長い時間を制作に使っていました。
旅をしたことよりも、旅を作品に変えることの方が、誰かに届けられる形にすることの方が難しかった。
でもそれが面白かった。
旅をして、
作って、
本にまとめる。
その一連の流れそのものが私にとっては一つの作品になったんだと思います。

日本で初めて知る「ゲル」
ゲルが出来上がり、母校の小学校や芝生広場などいろんなところへゲルを持っていく機会が増えつつある最近、
ある場所で建てた時私も知らなかったゲルに出会いました。
京都の船岡山公園という場所で開催されたオープンパーク。
そこで初めて木々の中に建つゲルを見ました。
「見ました」というと他人事のようですが、モンゴルで過ごした2ヶ月間、日本で作ってからも含め、木漏れ日の揺れる光が外幕に映り木々の間を抜けてきた風が通り抜けるゲルに出会ったのは初めてで。
綺麗だな。
純粋にそう思いました。
自分の知らないゲルはまだあって、文化や気候が変われば見える景色も変わって、それがなんだかとても美しいことだと感じました。
帰国してもなお、冒険はまだまだ続いているみたいです。

今年の11月、廃校で高校生にタイムスリップをして文化祭を作ります。
そこでは空を飛べる装置なんかを作ろうと思っています。
空への冒険の入り口かな?なんて。
_この世界と空想の世界へ続く、小さな冒険の入り口を作る。_
旅人でも建築家でも作家でもありませんが、ワクワクする世界を作る1人になりたいと思っています。
クリエイターと呼ぶには頼りないですが、作りたいものと高鳴りはあります。
誰かにお話しするような感覚で書いてしまいましたが、これを読んでくれたあなたと本当にリアルでお話ができたら嬉しいです。
ここまでありがとうございました。
では。
大野穂

