人はどうやって新しいものを創出するのでしょうか。
「創造力」というと、何もない無の状態から突如として0→1で発生する力のように思われる事が多いです。
しかし、実際には、頭の中にはこれまで見たもの触れたもの、経験した事、学んだ知恵、旅先の風景、夢や感情まで、無数の膨大な蓄積があります。さらにその中には、本人がすでに忘れてしまったものや、明確には意識されていないものも含まれます。
つまり創造性とは、何か無から有を発生させる事のできる魔法ではなく、既に存在している記憶や経験を分解し、発酵させ、結び直し、新しい関係性を与えることで、それまで存在しなかった像を作り上げる営みと考える事もできます。
異質なもの同士が接触し、混ざり合い、矛盾したまま善も悪もそのまま共存する過程から、自分でも予測していなかった何かが生まれます。
私は、この働きを、「攪拌」(かき混ぜる事)として捉えました。
今回描き上げた「海馬攪拌」は、人間の内部に蓄積された記憶やイメージが攪拌され大脳から飛び出し、新しい世界に再構成されていく過程を描いた作品です。

作品の中心には、バックの大脳から飛び出す三匹の大きな馬を描いています。
記憶を司る「海馬」
その発想の出発点になったのは、脳の「海馬」です。
海馬は記憶の形成と深く関係する脳領域として知られ、その形がタツノオトシゴ(英語ではHippocampus)(海馬)に似ている事から、イタリアの解剖学者ユリウス・カエサル・アランティウスが、命名し、日本語名でもそのまま訳された事に由来します。
そこで、和名にある「海」と「馬」を取り出し、攪拌される海の上に浮かぶ大脳から飛び出す「馬(horse)」に変換し、落とし込み描きました。

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ユングと無意識の世界
分析心理学を創始し、現在流行しているMBTI性格診断などにも影響を与えたと言われる心理学者カール・グスタフ・ユングの考え方の中では、
「人間の精神には、自分で認識できる意識だけではなく、その下に広大な無意識の領域が存在する」
「個人の経験だけでは説明できない、人類に共通する「集合的無意識」や「元型」」という考えを提示しました。
集合的無意識:人類が生まれつき心の奥底で共通して共有している巨大な共通の無意識の土台
元型(アーキタイプ):集合的無意識の中にあらかじめ用意されている登場人物やシチュエーションの型。
世界各地の神話や宗教には、文化や時代が大きく異なっていても、蛇や母、英雄、怪物、死と再生、渦巻といった似たイメージが繰り返し登場します。
非常に類似した物語や表現における構造や傾向が、世界各地で普遍的にみられる事は、アメリカの神話学者・比較宗教学者のジョーゼフ・キャンベルによっても提唱されています・
この視点で世界各地の文化をみつめてみると、人類の古層に横たわる普遍的な知恵や傾向をみつける事ができます。
スターウォーズやハリウッド映画の大ヒット作品もこの神話の法則と呼ばれる構造に強く影響を受けて作られています。
そんな、世界中の物語や表現に普遍的にみられるいくつも見られる元型の中に
私がこれまでにたくさん描いてきた「渦巻模様」と並びに、「グレートマザー(母性)」があります。
「グレートマザー」は、生命を生み出し、守り育てると同時に、自我を呑み込むものとして物語等で扱われる事の多い母性的イメージです。

今回、三匹の馬の胸部分には、日本のアマテラス、インド神話の怖母カーリー、キリスト教の聖母マリアを選び、シンボリックに描き込みました。

アマテラスの象徴:太陽神、豊穣、希望、死と再生

インド神話カーリーの象徴:全てを呑み込む、時間、破壊、殺戮、エゴ・悪業を断ち切る慈悲、動的・エネルギー

聖母マリアの象徴:無条件の愛、純潔、仲介
そして、大脳の周辺には断片的に様々なモチーフや風景を描き込みました。

バリ島のジャングル

太陽と月、星の部族

バリの霊峰アグン山と棚田・象と神鹿

カンボジアの密林寺院タ・プローム遺跡に腰掛ける森の精霊。
インド神話 乳海攪拌
もう一つ、この作品の大きなベースになっているのが、インド神話の「乳海攪拌」です。
乳海攪拌では、神々とアスラ(悪魔)が巨大な蛇をマンダラ山に巻き付けて引っ張り合う事で、大海を攪拌し、世界を創造する話です。
その海からは、不老不死の霊薬の他に様々なものが次々と現れたというインド神話における世界創生の話です。
「攪拌」は、日本神話にもイザナギとイザナミが、天の沼矛で海を攪拌して日本列島が生まれたという話がありますが、混沌をかき混ぜるという点で共通したものがあります。

私は、この「乳海攪拌」を描いた絵や壁画をインドやカンボジアのアンコールワット内で実際に観ました。

中心部には、本来は、山の頂上にはヒンドゥー教の維持を司るヴィシュヌ神がいるところを、芸術の都バリ・ウブドで観たバリ舞踊のダンサーに置き換えて描きました。ダンサーの背後頭上にあるのはバリの割れ門です。


タイの古都アユタヤにある世界遺産ワット・マハタートにあるビルマ軍の侵攻で切り落とされ放置された仏頭が菩提樹に飲み込まれた様子。

コミック表現からヒントを得た擬音表現を取り入れました。

富士山の象徴:不死山、末広がり、縁起、山岳信仰、魔除け
人間の精神は一つの海
「海馬攪拌」というタイトルには、「記憶を司る海馬」と「海を攪拌する乳海攪拌」の二つの意味を重ねています。
そして、作品全体を、人間の精神そのものを一つの海に喩えました。
海には波風がたち、固定の形を持たず絶えず変容し、脅威も恵みも多面的に含んでいる点で人間の精神と深く重なる部分があります。
そして海の中には、これまでに自分が見てきたもの、考えたこと、忘れたこと、旅先の記憶、神話、動物、夢、感情まで、無数の要素が沈んでいます。
創造とは、この自分の海の中に沈殿した混沌に手を伸ばし、かき混ぜ、立ち上げて世界を見出していくことにあります。
創造というと、格式が高く聞こえますが、日々、日常生活を送ることも創造の延長線にある営みです。
禅や明治の思想家に由来する言葉に、「一日一生」という言葉があります。
「今日この一日を自分の全生涯であると捉え、今この瞬間を全力で生きる」という考えがもとにある言葉です。
日々の生活を送る事も、自分という海の中に蓄積したものをかき混ぜて、行動に移し、生み出していく創作行為であるのです。
本作の「海馬攪拌」は、日常全てに通ずる「創造」の過程そのものを極彩色に落とし込んだ現代神話的な作品です。
観た人の「海馬(脳内)」をカオスの中に放り込み創造力を充足してくれる作品が完成しました。

「海馬攪拌」
17万円(月1万円~分割払いOK)最初のお支払いを確認次第、発送させて頂きます。
2026年制作 F20号(727×606mm) キャンバスにアクリル絵の具、メディウム、顔料ペン
※分割払いをご希望の場合は、直接私のSNSのDMか以下メールアドレスまでご連絡ください。
artmiyajimakeisuke@gmail.com

